★解説 解説 / 専門用語が多いので,できるだけ患者さん向けに,若い歯科医師向けに 解説とイラストを
このホームページの川村秋夫が 補足してみます.解説(★解説)と書いてあるのは小生 川村秋夫の解説です.
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(学会誌) 補綴誌46巻4号(2002) 597ー604 II.
顎機能障害(顎関節症)とは
…………………………………………………………………………131) 本ガイドラインの位置づけ
2) 顎機能障害(顎関節症)の定義
3) 顎機能障害(顎関節症)の類似用語
顎機能障害(顎関節症)の病態………………………………………………………………………14
1) 主要症候
2) 随伴症状
3) 日本顎関節学会の顎関節症の症型分類
顎機能障害(顎関節症)の疫学………………………………………………………………………15
1) 患者数
2) 年齢分布
3) 性差
顎機能障害(顎関節症)の病因と発症・増悪メカニズム……………………………16
1) 主な発症・増悪因子
2) 発症・増悪メカニズム
顎機能障害(顎関節症)の検査法と評価………………………………………………………16
1) 医療面接と診察
2) 下顎運動の検査
3) 咬合検査
4) 画像検査
5) 各種の機器を用いた検査
6) 関節内視鏡検査
7) 血液検査
8) 心身医学的検査
顎機能障害(顎関節症)の診断法…………………………………………………………………23
1) 病態の診断
2) 発症・増悪メカニズムの診断
・
3) 予後の診断
4) 治療方針の立案
5) 暫定的な診断
顎機能障害(顎関節症)の治療法…………………………………………………………………24
1) 顎機能障害(顎関節症)治療のアルゴリズム
2) インフォームドコンセント
3) ホームケア
4) 理学療法
5) 薬物療法
6) 初期的咬合治療
7) 咬合調整
8) 歯冠修復などによる咬合治療
9) 外科的治療
10) 心身医学的治療
11) 終診の目安
術後の管理…………………………………………………………………………………29
1) 引き続いて患者が行うべきホームケア
2) 経過観察
文献…………………………………………………………………………………………30 顎機能異常(顎関節症)とは 1) 本ガイドラインの位置づけ
科学的根拠に基づいた医療の重要性が指摘されているが,顎機能障害の診断や治療に関しては補綴をはじめとする多くの歯科治療や外科系の医科疾患がそうであるように,厳密なRandomized ControlledTrial(RCT)にのっとった科学的研究を行うことが困難であり,したがって,特に治療に関しては信頼できるデータベースがほとんどないのが実状である.
また,たとえば心臓外科手術後の生存率が,術式名だけをいえば全く同じ術式を採用していているにもかかわらず,
施設によって大きく差があるという現実がある.この差は手術術式の違いではなくて,
執刀医の能力をはじめとする診療体制のレベルの差によると考えられる.
Evidenceを問題にするとき,どの薬をどのように処方するかということが大きなウエイトを占める内科的治療と,
外科治療や歯科治療はおのずと性質が異なることを認識する必要がある.
RCTに基づいた最近の研究で,非復位性の関節円板前方転位症例に対して,治療を行わずに経過観察を行った群と比較して,
薬物療法やスプリントがより有効であるという結果が得られなかったという報告 があった.
このような研究結果は過剰診療に対する戒めとして真摯に受け止めなければならないが,
その一方でスプリント治療について,もしほかの施設で,あるいはほかの術者が行ったらさらに悪い結果が出ていたかもしれないし,
あるいはもっと良い結果が出ていた可能性もあるという懸念がある.
治療内容に対するテクノロジーアセスメントが十分でないと,
研究結果を左右するようなバイアスがかかることにも配慮が必要であろう. (★解説)解説 テクノロジーアセスメント : 事前の予測評価) ★
( ★解説 バイアス : 偏り)★このようなことをすべて慮したうえで,顎機能障害の診断や治療の根拠を得るために,
RCTだけでなく良質な追跡研究(前向きコホート研究)を積み重ねて,学会をあげてデータベースを構築していかなければならない.
しかし,現実には顎機能障害の諸症状を訴えて治療を希望して来院する患者が大勢おり,エビデンスがないといって治療を放棄するわけにはいかない.
このガイドラインは,先人の臨床経験やこれまで行われた臨床の治験あるいは基礎的研究の成果から,
コンセンサスが得られているであろうという内容を整理して本学会員に提供するものであり,
将来のより望ましいガイドラインのたたき台として位置づけてもらいたい.
顎機能障害(顎関節症)は顎関節雑音,顎関節や咀嚼筋の疼痛,顎運動障害を主徴とし,顎機能だけではなく,
ときには全身的にもさまざまな障害をもたらす症候群で,齲蝕,歯周疾患に次ぐ第三の歯科疾患といわれている.
顎機能障害(顎関節症)は国際的に認知されている
TemporomandibularDisorders(TMD)に対する日本語疾患名であり,わが国において最も一般的な疾患名であり 日本顎関節学会の正式用語である 顎関節症 と同義である.
日本顎関節学会は顎関節症を以下のように定義している
. 顎関節症とは,顎関節や咀嚼筋の疼痛,関節(雑)音,開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする慢性疾患群の総括的診断名であり,その病態には咀嚼筋障害,関節包・靱帯障害,関節円板障害,変形性関節症などが含まれる」
アメリカ口腔顔面疼痛学会AmericanAcademyofOrofacialPain(AAOP)は
TMDを国際頭痛学会(InternationalHeadacheSociety)による頭痛,頭部神経痛,顔面痛の分類中に位置づけており,
顎関節については先天性障害や関節突起の骨折,筋においては新生物の形成などを含み,顎関節学会とは異なった疾患を分類に入れている .
なお,顎機能には,咀嚼,嚥下や発音などの機能があるが,本ガイドラインで扱う顎機能障害はあくまでも
TMDに対応する症候群を意味し,ほかの疾患による咀嚼障害,嚥下障害および発音障害などは顎機能障害(顎関節症)の範疇には入れない. 3) 顎機能障害(顎関節症)の類似用語顎機能障害の同義語には上述のTMD,
顎関節症のほかに顎機能異常 (Temporomandibular Dysfunction)やCraniomandibularDisordersなどがあり,関連用語としては
MPD症候群(MyofascialPainDysfunctionSyndrome)および
顎関節内障(InternalDerangementofTMJ)などがある.
顎機能異常はわが国の歯科補綴学領域を中心に,またCraniomandibularDisordersは一時期欧米でよく用いられた用語である.
最近欧米では機能障害というよりは痛みを特に重視してOrofacialPainという用語が頻繁に用いられるようになってきた.
これは顎顔面を含む頭頸部のあらゆる痛みを対象とするものであり,顎機能障害や顎関節症などのように疾患(症候群)名とは捉え方が違う.わが国では顎関節症が顎関節学会の公式な用語として最も広く用いられているが,相当するTemporomandibular JointArthrosisは顎関節に症状の認められない筋症状主体の症型も含むこの症候群に対応していないことから,用語の再検討が求められている.関連用語のMPD症候群および顎関節内障は本症候群の一部の病態に対応する用語である.
顎機能障害(顎関節症)の病態
1) 主要症候顎機能障害の主要症候としては顎関節雑音,顎関節や咀嚼筋など頭頸部筋の疼痛および下顎運動異常がある.
・
関節雑音顎関節雑音としては,開口などの動作に伴って顎関節部でカクンあるいはコキンという音がするクリッキングClickingと
ジャリジャリあるいはギジギジという音のクレピテーションCrepitationがある.
・
疼痛疼痛は開口や.みしめ動作に伴う運動時痛が最も多く,圧痛がこれに次ぎ,自発痛は比較的少ない.
痛みの程度としては中程度以下の鈍痛であることが多く,強度の鋭痛であることはまれである.
また,痛みを訴える部位は顎関節や咬筋,側頭筋および外側翼突筋などの咀嚼筋が多いが,定位は必ずしも良くない.
・ 下顎運動の異常
下顎運動の異常としては開口制限,片側の顆頭運動に制限がある場合にみられる切歯点における開閉口路の偏位などがある.
2) 随伴症状 (★解説 咬合関連症とも呼ばれる)
顎機能障害患者では,頭痛,首や肩の凝り,耳なり,難聴,目眩,舌痛,咬合の不安定感,手足のしびれ,自律神経失調症状など,
全身的にあるいは情動的にもさまざまな症状を訴えるものもいる.
これらの主要症候や随伴症状のなかには顎関節雑音や,下顎運動制限などのように客観的に評価できるものもあるが,
痛みをはじめとして多くは患者の主観的な症状である.
3) 日本顎関節学会の顎関節症の症型分類
日本顎関節学会では顎関節症を,
1型:咀嚼筋障害,
2型:関節包・靱帯障害,
3型:関節円板障害
a:復位を伴うもの,
b:復位を伴わないもの,
4型:変形性関節症,
その他:1〜4型に該当しないもの,5つの症型に分類している(2001年改訂) .
顎機能障害患者では複数の病態を持つ場合が多く,単一の症型に明確に分類することは必ずしも容易ではない.また,欧米では上述したように国際頭痛学会の分類に沿った分類が採用されており,わが国の分類との整合は得られていない.
顎機能障害の疫学
1) 患者数
顎機能障害に関する種々の疫学調査があるが,検査基準が同一ではないので比較は困難である.
一般の集団において40〜75% に他覚的に何らかの異常が認められ,その内 治療を必要とする割合は5〜7%と推定される .
また,病院歯科を訪れる顎機能障害患者の割合は施設によってバラツキがあるが,
おおむね初診患者の10% 程度を占めるとみられる.
2) 年齢分布
病院を訪れる顎機能障害患者は10歳代後半から20〜30歳代にピークをもち,
年齢が高くなるにつれて徐々に減少する一峰性の分布を示すという報告 や,
40歳代から50歳前後にもう1つのピークを持つ二峰性の分布を示すという報告 などがある.